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 『Fly away 9』



   ところがここへ来て
   こうして医療に携わり
   大病院にいれば有り得ることだと分かっていた事ながら
   恐れていた壁にぶち当たることになってしまった。
  





 


   先日交通事故で運び込まれてきたクランケ。

   打ち付けた場所が悪く 
   片目を損傷していて手の施しようがなかった。

   彼女はまだ8歳の子供だった。
   
   なんとかならないものかと母親に泣きつかれたけれど
   どうすることもできなかった。

   もちろん・・・手を施す術がなかったクランケを
   今まで見たことがないわけじゃない。

   けれど・・・自分が担当するクランケなのは
   これが初めてのことだった。

   未だ入院中の彼女は『先生、先生』と よく懐いてくれている。
   それが余計に辛かった。   

    「医者ってなんなのかな・・・無力なものね。
     苦しんでいる人の手助けをしたいと願って医者になったのに
     治せる症状なんてほんの一握りだわ・・・」

   そんな弱音を口にした。

   彼は黙って天井を見上げていたが
   ふと呟くように言った。

    「お前はいい医者だよ。
     そう思ってくれる医者が現実にどれ位いるだろうな・・・」

    「そんな気休めはいらないわ」

   苦笑する私に彼は言った。

    「気休めじゃない。人間、どう頑張ったって死ぬときは死ぬんだ。
     だけど、いつもそれと隣り合わせなお前の仕事は大変だ・・・
     俺の仕事は安気なもんさ。
     ただただ力を尽くしてベストな家を建てるだけだからな・・・」


   けれど そうは言っても
   彼がそれにどれだけ精魂尽くしているのか
   私には分かる。


   私はそっと彼の腕をすり抜けてベッドから降り
   鞄を開けて一冊の本と作りかけの折り紙を取り出した。

   その幼いクランケ・・・彼女は折り紙がとても好きだった。

   病室に回診に行くと
   いろんなものを作って見せてくれたりプレゼントしてくれる。

   『先生もあなたが退院するまでに、何か作ってあげるね』

   そう約束して本屋に立ち寄り 作り方の書いた本を買い
   空いた時間に少しずつ作っていたものだ。

    「で、何作ってる・・・?」 
    「うん・・・玖珠球(くすだま)なんだけどね・・・難しいのよ・・・」

   グンホはしかめっ面で格闘している私の側に来て
   一枚折り紙を手にして言った。

    「手伝ってやるよ・・・どうすんだ?」

   驚いた。
   彼が・・・折り紙を・・・?

    「違うわ、そうじゃないってば・・・」

   などと 偉そぶって教えてはみたものの・・・
   なんて器用なんだろう。

   出来上がったものは私の作ったものよりも遥かに綺麗だった。

    ・・・そっか。
     彼は職人なんだもんね・・・
     指先が器用な筈だわ・・・

    「上手ね」   
    「ふっ・・・当たり前だろ」

    「ありがとう・・・」
    「ふたりでした方が早く出来るだろ?」

   嬉しくてつい 私の顔からは笑みが零れた。


   彼はこうも言った。

    「正直言うとな、はじめはただの・・・高飛車な女かも、と思っていた。
     でもな・・・お前が毎日毎日 
     しかもあんな雨の日にまで家を見に来るからさ・・・」
    
    「俺は・・・お前の笑った顔が好きだ。
     とても・・・癒される。
     どんなに疲れているときでもな・・・」

    「だから・・・お前に笑って送り出された患者は
     きっと、診て貰って良かったと思っている筈だ」
   

   不思議だった。

   彼といるとどんな自分も正直に曝け出してしまう。

   話したところで 
   心に背負う苦しみが軽くはなるわけはないけれど・・・
   それでも少し その重荷を
   彼が担ってくれる様に思えた。


   そしてそれは 彼には・・・ホジュンには
   決して言えないことだった。

   医療の現場で共に働いているホジュン。

   もしかしたら・・・いや きっと
   彼にはグンホよりも私の置かれた立場や気持ちが
   手に取るように理解できるだろう。

   けれどホジュンには言えなかった。

   ホジュン自身が私よりも過酷な内科に属し
   私以上に患者の生死にいつも向かい合い
   胸を痛めて苦しんでいる。

   そのことを知っているから・・・。

   彼に会うときはいつも
   仕事での話をなるだけしないように心がけてしまう自分がいた。

   彼は・・・ホジュンのほうは
   『辛いことはない?』 『なにか困っていることは?』 などど
   いつも惜しみなく私の様子を気にしてくれて
   よく問うてくれはしたのだけれど。


 

   先日約束を破ったことで
   なんとなく気まずくなっていたホジュンと私は
   今日の昼休み 久々に一緒に食事を取る約束をした。


   そしてそのとき ホジュンは突然思わぬことを口にした。

    「ヘイン、君・・・他に好きな人がいるの?」

    ・・・え!?・・・

   まさか彼にそんなことを言われようとは。

    ・・・恐れていたことが現実に・・・!

   開いた口が塞がらなかった。

   何も答えられない・・・『違う』 とも 『そう』 だとも。

    ・・・私は一体 どうしたら・・・?・・・

    「見たんだ・・・昨日 君が誰かの助手席に乗っているのを」

    「え・・・?そんなの人違いじゃ・・・」

    「君の車は家の車庫にあったろ?ホテルでなく・・・
     僕が朝来るときもあった。」

    「・・・・・・」

    「でも君は その車で朝出勤してきたよね?」

    「え・・・えぇ・・・」

   何も考えられない。

   思考回路が閉ざされていく・・・。

    「き・・・昨日は友達のうちに泊まったのよ。
     でも、彼女の家、車止められないからうちに置いておいたの・・・」

   とっさに口を付いて出たいい訳だった。

   それでもホジュンが訝しく思っていることは間違いなかったけれど
   それ以上彼は何も言うことなく昼休みは過ぎた・・・。



    ------------------ To be continued...  -----------------
by fu-rinnosuika | 2007-06-07 00:32 | 創作 女医とガテン男
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